スロベニアの詩人であるプレシェーレンのサヴィツアの洗礼を和訳をしてみました。サビィツアの洗礼は昔の言葉で書かれているので、和訳には日本の昔の表現を当てはめて挑んでみました。間違った解釈をしてしまっている個所もあるかもしれませんが、読んでいただけたら幸いです。
翻訳するにあたって
私が学んだ言語は、英語をはじめドイツ語、ポーランド語になります。スロベニア語については、この詩に触れるまでは全く知らない言語でした。
とある縁で知り合ったスロベニア人の方からプレシェーレンのお話を聞き興味を持ち、チュルトミルの存在に行きつきました。
しかし、チュルトミルの詩に関する日本語訳の文献を見つけることができなく、自分で訳すことにしました。
英語、ドイツ語、時にはスウェーデン語からの資料を便りに、情報をつなぎ合わせながら翻訳に臨みました。
また、チュルトミルという人物に興味がある方がございましたら、こちらで詳しく述べていますので、こちらの記事も併せてご覧ください。
スロベニア語について
イタリアの隣にある国ですが、ラテン語系ではなく、スラブ語族に入るそうで、ポーランド語を学んでいた時のような感覚をやや意識しながら望みました。
スロベニアは、数十年前までユーゴスラビアの一部だった国でもあります。教えてもらって初めて気づいたのですが、「スロベニア」とはそのままスラブ人の土地という意味があるそうです。
スラブ語族の言語だけあって、名詞などが多彩に格変化するため個人的には訳すのがとても厄介だと感じました。
スロベニアの友人との会話
余談ですが、スロベニアの友人との会話について少々述べていきます。スロベニアの友人の話だと、日本語はとても綺麗で、普通の言葉に新しい意味をつけるようだと言っていました。
最初「新しい意味」がどういうことかわからなかったのですが、どうやら漢字のことを言ってるようで、友人が「暁」を例に話してくれたことがありました。
スロベニア語では「あかつき」は「svit」となるそうですが、それしか意味を持たないそうです。
しかし、日本語の場合は「日」は太陽を連想できるし、「尭」は高いところを表す言葉なので、太陽が出てきたというのがわかると語ってくれました。
そして、「とてもすごいことじゃないですか?!」と目を輝かせて力説してきたことを今でも鮮明に覚えています。
時に他の国の方々と交流を持つとき、自国の文化の着眼点や感動するポイントの違いに驚かされることがあり、自身の視野が広がって出逢いに感謝することがあります。
プレシェーレンのサヴィツアの洗礼について
まずはプレシェーレンとサヴィツアの洗礼について簡単な説明をしていきます。おおまかにですが、どういった人物で、今回翻訳するのはどんな内容なのかについて述べていきます。
プレシェーレン
出展:AI画伯を使用した自身の画像より引用
フルネームをフランツェ・プレシェーレンと言い、スロベニアを代表する詩人です。ただ、詩人としてだけでなく、国内に強い影響力を持った人物で英雄とまで称されています。
各国にはいろんなアイデンティのカギとなるものがありますが、スロベニアの場合はそれが言葉であり文学でありました。
文学が国のアイデンティーとなっているのは素敵に見えてしまいます。ただ、裏を返せばかなり複雑な背景が潜んでいるようにも感じさせます。
サヴィツアの洗礼の一部
今回翻訳する部分は、サヴィツアの洗礼の中で宗教の対立による戦争を描いたパートになります。チュルトミルという主人公のアングルで戦争の様が描かれていて、壮絶さが伝わってくる詩となっております。
チュルトミルが戦う相手はキリスト教徒の軍でした。チュルトミルは、奮戦しますがどんどん追い詰められていきます。
スロベニアがキリスト教に改宗していった歴史の道筋の半ばと、主人公の抗い続ける心境や状況が刻々と変化していくのが生生しく迫ってくるようでした。
サヴィツアの洗礼の翻訳
この記事では、「krst pri savica(サヴィツアの洗礼)」のUvod(序文)についての翻訳を行っています。スロベニアの友人の話では、この詩に使われている表現は古い言葉でつづられているそうです。
なので意味を解釈するのが余計困難でもありましたが、どうせならこちらも古い日本語のような言い回しを用いて訳しみようということになりました。
もうしばらくの間お付き合いいただけら幸いです。それでは、翻訳の方をご覧ください。
序文
出展:AI画伯を使用した自身の画像より引用
Valjhún Kajtimirの息子
血塗られた戦 キリスト教の下 永く撃攘す
Avrelij Droh もはや抗わん
むかえし終息
多くの命 kranjiの血
零れ落つ Karantanija 湖面に満つ
懦夫の指揮官 未だ軍後方に燻り
故につわものども 烏合の集と化し 屍となる
Črtomírを除き
奮戦するは 彼の一軍のみ
若き英雄の戦 父の信仰の為
美しき女神 Živaよ
導かれし為 雲の上の神々へ
誤った信念 宿いし 彼のものたち
Bohinjの Bistrškoへ
辿り着き 灰岩に座すは レンガ造りの砦
未だ 廃墟を照す 陽光の誘い
選ばれしは Ajdovski砦
Črtomírの終着の地
九倍超ゆる 数の脅威 押し潰すが如く
加え 哨兵の囲み 頑強也
果てに絶たれし 同盟の救い
備え 巡らすは 高き足場
砦壁削剥 門扉侵食
然れど 抵抗熾烈 未だ突破するに至らん
六つき渡りて 生気 血川 共に荒廃するが如く
スロヴェニア 已に スロヴェニア殺める はらがらたちよ
こんなにも恐ろしく盲目な人類
剣 斧 円匙 消ゆる刻
飢餓凌ぐは 不可能也
堅牢な門扉 脅かされる
終に Črtomírら 窮状隠す事能わず
配下招集し 告ぐる
「剣は朽ちるだろう、しかし我達の悪運の強さは朽ち果ててはいない」
糧秣あと僅か はらがらよ 喰らえ
我達は 支援なしに 生き存えた
投降渇求するもの 責めはせぬ
誰しも 宵明けを望む
隷属 暗闇を生きるが如し
否 其の日まで 共に抗うを強いるつもりなし
其の態 英雄達召喚す
甘んじるを 拒絶し
宵闇より深く イカヅチ 雲打ち震わす
敵じきに 此処に 詰めよらん
僅かな機 見出すは 近くの茂み
今宵 正念場也
此の世の子達はスラブへ帰属し
我達は路を拓き 我達の子達は
宗教と法の下 自由を得るだろう
然し乍ら 我達に死神 臥い伏す
輝く太陽の下 奴隷として暮らすより
大地の黒き翼に 包まれた夜は 畏ろしい
之の試練から 立ち去るもの居らず
静寂の中 みな武器を手にし
安全な離反を選ぶもの 皆無也
門扉大きく口ひらき 火の手あげ
凄まじき突撃 恐れを知らずは 容赦なき虐殺者の群れ
Valjhún 全軍を以て襲いかかる
敵の就寝の暇
彼れらは 密かに壁上に 羽ばたく
虚を突き 穿つ
刹那 嵐起つ 怒りが解き放たるが如く
喧騒の核から 門衛救援求めん
すり減らされ 散りゆく 命
豪雨に依り大水が射たれ
頂から山腹へ急襲
あらゆるもの 吞み込まれる
奇策に惑い 其の上
知る由もなき 堰の決壊
Valjhún 彼れらの信仰を前に 取り乱す
彼れらは屈しない 息吹の雫が尽きるまで
血を流し続ける sopeが仕上がるまで
彼れらの信仰は 総てに於いて崇高なものだった
暁天の光芒は屍の群れの上に
横たわりながら 蕎麦や小麦を収穫していく
大地は幾つもの麦の束を眠りにつかせた
横たわる過半数はキリスト教徒
残りは偶像達の因散った者ども
Valjhúnは救いを求めた 若者たちの表情に
数多の命 奪いし業は 何処へ
注釈
1.Valjhún-キリスト教を支持するカランタニアに君
2.Avrelij, Droh (Aurelius, Drohus)-アウレリウス2世。769~772年の間カランタニアを支配して
3.Marsik-マルシクκ(カッパ)星、文献によっ
4.kranji-クラーニ。リュブリャナから西に約20k
5.Karantanija-カランタニア。スラブ人の部族
6.Živa-愛と繁殖のスラブ人の女神
7.Bohinj -ボーヒン。スロベニア北西部、ゴレンスカ地方の盆地。ユリ
8. Bistrica-ビストリツァ。ボーヒンの最大かつ中心集
9.Ajdovski砦-ビストリツァの東に位置する、標高580mの丘。Črtomí
10.sope-古いパンを薄切りに置き、上からセロリスー
サヴィツアの洗礼はスロベニアの英雄譚でもある
神聖ローマ帝国やハプスブルク家の領地になったり、近代ではオーストリアとハンガリーの帝国に組み込まれたり、ユーゴスラビアとなったりして、自分たちのアイデンティティーがわかりづらくなった国かもしれません。
そんな中プレシェーレンは、スロベニア人が自ら統治していたと思われる7世紀のカランタニア公国の話を詩という形で国民に思い起こさせたのではないでしょうか。
そこで、自身のアイデンティに喝が入った方や勇気づけられた方も多かったのではないでしょうか。
サヴィツアの洗礼は、外の者たちや見知らぬ文化に対して抗うパワーや心境がダイナミックに描かれてる英雄譚と言えるのではないでしょうか。