前回はリヒテナウアーの人物像や教えに関してご紹介していきました。今回の記事ではリヒテナウアーの教えを受け継いだ人々に関して見ていきましょう。また補足としてヨーロッパの剣術家として有名でかつ個性的な人物たちに関しても触れていきます。
教えを継いだ者たち
15世紀の半ばのドイツの剣術家たちは、リヒテナウアーの教えを受け継いでるとアピールすることが権威や名誉に繋がりました。その中でも「der Gesellschaft Liechtenauers(デア・ゲゼルシャフト・リヒテナウアース)」と呼ばれる17人の剣術家が名を馳せたそうです。
der Gesellschaft Liechtenauers
パウルス・カルが記した剣術の書の中でリヒテナウアーの教えを継ぐ者たちに関して紹介しています。der Gesellschaft Liechtenauersと題されたグループ名の中には、リヒテナウアーやパウルス・カルを含めた18人の人物が記載されているようです。
ドイツだけではなく東欧にも
エアフルトのハンス・ザイデンファーデン、ニュルンベルクのハルトマン、グラーツのペーター・ヴィルトハンス、ダンツィヒのペーター、ズノイモのハンス・シュピンドラー、クラクフのウィルギル、プラハのランプレヒトなどがいます。他にはレグニツァ兄弟(ヤーコブとアンドレ)、マルティン・フンツフェルト、ハンス・ペグニッツァー、フィリップス・ペルガーが名を連ねているようです。
エアフルトはドイツ中央部の州テューリンゲン、ニュンベルクはドイツ南部の州バイエルンにあります。グラーツは現ポーランドの南西部あるクウォツコ、ダンツィヒは現ポーランドの北部にあるグダニスクのことです。クラクフは南部ポーランド、ズイノモとプラハは現チェコにあります。リヒテナウアーはドイツや現オーストリア、さらに東欧を主に巡っていたためか、受け継ぐ者たちは様々な地域に及びます。
グラップリングなどの格闘術に影響を与えた者
オット・ユードはキリスト教に改宗したユダヤ人という異色の人物らしいです。主にドイツ流の武術の中ではグラップリングなどの格闘術に関して多大な影響を与えました。パウルス・カールはオット・ユードのことをオーストリアの皇太子たちのレスリングの師と呼んでいるようです。
通り名を持つ者
「ブラウンシュヴァイクの短剣使い」という通り名のあるディートリヒ、パウルス・カルに万人の師と呼ばれたメルンスハイムのシュテットナーなどがいます。リテナウアーの周りには多種多様な人々が集いました。
ドレスデンの手稿を記した者
出展:AI画伯を使用した自身の画像より引用
ジークムント・リングエックは剣術書として非常に有名な「ドレスデンの手稿」を著した人物の内の一人です。リヒテナウアーを始め様々な剣術家の教えを具体的な資料として残した人物であり、剣術の歴史を知る上で重要な功績を果たしました。ジークムント・リングエックは剣術界において非常に有名な人物の一人と言えるでしょう。
ヨーロッパの剣術家たち
ヨハンネス・リヒテナウアー以外にもヨーロッパの様々な地域で有名であった剣術家に関してまとめていきます。そこで代表的な剣術家として、イタリア、イギリス、フランスで有名であった人物たちに関して見ていきましょう。
フィオレ・ディ・リベリ
14世紀後半のイタリアで有名だった武術家というと、宮廷の剣術の指南役のフィオレ・ディ・リベリです。「戦いの花」と呼ばれる書で、ダガーやロングソード、長い柄の武器、素手での組討などを述べています。
ジョージ・シルバー
戦いの哲学書とも言える書を16世紀に二つ残しています。戦いの哲学を通して、当時流行りだした武器であるレイピアを非難しているような内容とも言えるでしょう。ジョージ・シルバーが扱う得物はレイピアとは対照的なものであるブロードソードでした。
シュヴァリエ・デオン
18世紀のフランスの剣術家で、人生の前半は男性として、後半は女性として過ごした人物です。兵士やスパイとして活動し、フランスの外交官もしていました。ただし晩年は生活する費用を稼ぐために、見せ物的なフェシングの試合をして暮らしていたそうです。
騎士道と情報把握力
ここまでリヒテナウナーの人物像や戦における考え方に関してまとめてきました。紀元前の有名な兵法書である孫氏の時代から「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」と既に言われている通り、戦や何事においても情報を把握する力が非常に重要なことが頷けます。
リヒテナウアーの戦いにおいても情報を把握することがまず第一だと言っているようにも聞こえます。ただしリヒテナウアーの教えの大前提に据えられていることは、中世ドイツの気高い騎士道精神です。リヒテナウアーの教えは現実的に戦いに必要な考え方だけでなく、騎士の哲学も兼ね備えているため、ドイツの剣術家のお手本となるのに相応しい教えだったと言えるのではないでしょうか。